タイトル:大いなる不在 GREAT ABSENCE
アーティスト:koji itoyama
発売日:2024年7月12日(金)
品番:RBCP-3545
JAN:4545933135451
フォーマット:CD
価格:2,970円(税込)
ジャンル:サウンドトラック
発売元:ランブリング・レコーズ

<この世界と共鳴するために>監督 近浦啓
「⼤いなる不在」という作品は、この企画を構想した2020年の暮れから2021年にかけての社会の景⾊に⼤きく影響されている。パンデミックの⽀配が始まった頃はその唐突な⾮⽇常性のインパクトに浮き⾜⽴つような感覚を覚えたが、1年も経つとその⾮⽇常の景⾊にも慣れ、「次は第何波だっけ」と受け⼊れる他ない現実に⼼が静まる⽇々だった。この物語の中⼼は、そもそも疎遠な関係であった⽗親が急な認知症を患い、残された⼿がかりをもとに主⼈公が迷路を彷徨い何かを⾒つけようとする旅路である。そこには彼の怒りがあるわけでもなく、⽗の変貌を嘆く悲しみがあるわけでもない。そんな主⼈公をカメラは追い、ある種のロードムービーの果てに⼈間の存在についての確かな⼿触りのようなものを掴めれば、と願った。
このような作品に寄り添う映画⾳楽はどのようなものであるべきか。⽷⼭晃司⽒とオンラインで何度か議論を重ねた。彼は脚本を読んだ段階でこの物語の核と、そこに流れるであろう空気を掴んでくれていた。撮影後、約15分程度のシーケンスごとに編集し、⽷⼭⽒に共有した。しばらくして彼から届いたメインテーマの候補はその時点で既にこの「⼤いなる不在」の顔つきをしていた。当初から、登場⼈物の感情を代弁するような⾳楽にはしたくないことは共通の想いだった。かといって、対位法のような画との無関係さにより逆に感情を醸すやり⽅のあざとさも僕は好きではなかった。僕が⾳楽に求めていたのは、この物語世界を構成する全ての要素に⽂字通り溶け込み、ユニバース・デプスを深めることだった。だからこそ、あるシーンでは街の雑踏のノイズと共鳴してほしかったし、また別のシーンでは室内の不穏な静けさを指でなぞるように⾳楽が鳴ってほしかった。それらの全ての僕の要望に対して、⾳楽家である⽷⼭晃司⽒が返してくれた答えは僕の想像を軽々と超えるものだった。そしてこの⾳楽たちが、35mmフィルムで撮影された画と精密にデザインされた映画⾳声とマージされた時、この映画はまさに誰しも記憶の隅にこびりついているであろうあの2020年から2021年の空気を纏うことになった。トロント国際映画祭、サン・セバスティアン国際映画祭をはじめ、世界各国の映画祭での⼊選や受賞という栄誉に授かった⼤きな要因の⼀つがこの映画⾳楽だと思う。そして映画内の⾳楽だけにとどまらず、サウンドトラックCDとしてマスタリングされたこの⾳源に向き合うことができて⾮常に嬉しく思う。